オリンピックと専門用語。

毎日熱戦が続く、バンクーバー・オリンピック。

6年前のアテネオリンピックの際に、

オリンピックと専門用語をテーマに、

社内(博報堂)向けに書いた文章を見つけたので、

アップしておきます。

少し長いのですが、楽しんで読んでいただければ、幸いです!!

福原の「つっつき」~オリンピック放送と専門用語~
 
もうずいぶん前のことのように思えてしまうアテネオリンピック。大会期間中は、野球、バレーボールといったよく知っている人気競技はもちろん、卓球、ソフトボールなどの比較的マイナーなスポーツも、楽しく観戦しました。

さて、こういういわゆるマイナー競技を見ていると避けられないのが、「飛び交う意味不明な専門用語の数々」です。いったいそれは種目名なのか、技の名前なのか、はたまた特殊なルールなのか。なんとなくわかるけれども、ちゃんとは分からないまま、コトバが耳を通りすぎる。普段見るメジャースポーツ中継ではなかなかないことで、なんとも新鮮だったり、やっぱりストレスだったり。一応、アナウンサーはそのあたりを意識し、一般的な言い方に直し、タイミングを見計らって用語解説を加えてくれます。が、その世界でたたき上げてきた解説者の多くは、ごく自然に専門用語を繰り出しがちです。彼らが普段行う、ファン向けの放送ならばそれでもばっちり通じるのでしょう。

印象に残っているのは、福原愛選手が敗れた試合で解説者が発した、福原へのアドバイスでした。「もうすこし、つっつきで粘って、チャンスボールを待つべきですね」・・・「つっつき」? なんじゃそりゃ? 画面には、その声が届いたのか、ラケットを振るというよりも当てるだけの、いわばブロックショットで、長いラリーを展開する福原の姿がありました。なので、なんとなく理解できました(間違っているかもしれません)が、それにしても、「つっつき」とは。

もちろん、こういう玄人コトバにもよいところはあります。その“?”から競技自体への関心が強まることもあるでしょうし、臨場感を高め視聴者をその世界に没入させる演出としても機能していると思います(実際、「個人的には大好きだけれど、一般的にはそれほどメジャーではない」というぐらいのスポーツの放送で、常識レベルの用語がことさらに解説されたりすると、がくっと醒めてしまうものです。勝手ですね)。

同じようなことは、日々の仕事でもあります。対クライアント、対プロジェクトメンバー、対マスコミ、対ユーザー(「生活者」というコトバの浸透具合もよく判断に迷うところです)…。いま使おうとしているコトバは相手にとって分かりやすいかどうか。分かりやすくないのならば、どう言い換えるか。敢えて使うのか。コトバ感度を意識し、バランスを判断する。と、どれだけ気を配っても、ついついいつものなじみのあるコトバを安直に選びがちです。危ない、危ない。毎日の自分の発言に対して、常に「なにそれ?意味わかんねえよ」と突っ込む気持ちを忘れまいという思いを強くした、アテネオリンピックでした。

2004年9月記す
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